猫の皮膚病

教えて!猫の皮膚病シリーズ【皮膚糸状菌症】

教えて!犬の皮膚病シリーズに続きまして、猫の皮膚病シリーズも早速スタートしていきます。猫の飼い主さんは必見です!!

第1回目は若い子猫で比較的遭遇することの多い、猫の「皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)症」についてです。

カビ(真菌)の一種である皮膚糸状菌は、人にも感染することがあるので注意が必要です。

そのため今回は皮膚糸状菌症の症状や治療だけでなく、お家での環境清掃も重要なポイントとなるので、ぜひご覧ください!!

皮膚糸状菌症とは?

皮膚糸状菌症とは、皮膚や被毛、爪に感染する「皮膚糸状菌」という真菌(カビ)による疾患です。

この皮膚糸状菌は30種類以上存在し、ヒトを好む菌、動物を好む菌、土壌を好む菌に分けられます。

その中でも猫に感染する皮膚糸状菌のほとんどがMicrosporum canisという真菌です。

重篤な症状を引き起こすことは少ないですが、同居する動物や人にも感染する可能性があるため、人獣共通感染症としても注意が必要な病気です。

ちなみに、人の足に感染する水虫(足白癬)も実は皮膚糸状菌なのですが、その多くはTrichophyton属というM. canisとは別の種類の皮膚糸状菌です。

リスクファクターと好発品種

皮膚糸状菌症にかかりやすいリスクファクターとしては、暖かく湿った環境若齢猫、シェルターなどにおける集団飼育が挙げられます。

一方で、免疫抑制療法を受けていたり、FIVやFeLV陽性の猫が皮膚糸状菌症にかかりやすいというわけではないようです。

ペルシャは皮膚糸状菌症の好発品種として書かれることが多いですが、これは皮膚糸状菌症に対する研究の中で、ペルシャが大きな割合を占めているからであるとも言われています。

確かに普段診察をしていてもペルシャがかかりやすいというよりは、長毛であろうと短毛であろうと皮膚糸状菌症は子猫で多いという印象です。

感染経路

猫の皮膚糸状菌症の主な感染経路は「感染動物との接触」です。

猫同士で接触することで、皮膚糸状菌の胞子が猫の皮膚表面に付着し、皮膚の角質内に菌糸を伸ばしながらどんどん広がっていきます。

胞子が皮膚に付着してから1〜3週間経つと、感染が皮膚症状として目に見えるようになります。

保護猫を引き取ってしばらくしてから症状が出てきた!というケースが多いのはこのためです。

一方で、ノミなどの寄生虫感染で体を掻いてできた小さい傷などがなければ、環境中の皮膚糸状菌(感染猫の毛やフケ)から感染する可能性は低いようです。

また、猫のグルーミングは体についた感染被毛を除去する重要な役割があるため、エリザベスカラーなどでグルーミングを制限しないことも大切です。

皮膚糸状菌症の症状

皮膚糸状菌症の皮膚症状は左右非対称性で、斑状の脱毛フケ赤みが顔や耳の先端から始まり、足先やしっぽなど全身へ広がることが多いようです。

局所で単発病変の場合もあれば、多発する場合もあります。

体の先端に症状が出ることが多いのは、皮膚糸状菌症が感染動物との接触で起こることと関係しています。

想像してみてもらうとわかるのですが、猫同士でじゃれあったり、猫が毛づくろいで触る顔や耳の先端、足先などが症状の出る場所と一致していますよね。

痒みの程度は様々ですが、他のアレルギーや寄生虫疾患と比べて比較的マイルドなことが多いです。

耳の先端に円形の脱毛と赤み、フケが認められます。
右腕の内側に斑状の脱毛と赤み、フケが認められます。

 

一方、この皮膚糸状菌が人に感染してしまうとめちゃくちゃ痒いです(実体験)。

人の場合もやはり感染動物との接触が原因で、円形に皮膚が赤くなってしまいます。

もし皮膚糸状菌症の猫がいて自身にこのような皮膚症状を見つけたら、動物病院ではなくすぐに人の皮膚科へ行ってくださいね。

皮膚糸状菌症の診断

皮膚糸状菌症の診断に「ゴールドスタンダード」と言われるような完璧な検査はありませんが、いくつもの検査を組み合わせることで確定診断を行うことができます。

ウッド灯検査

ウッド灯という特殊な紫外線を出す機械を使って、皮膚糸状菌に感染した被毛を見つける検査です。

M. canis感染被毛はウッド灯の光を当てると、蛍光を発します。

感染した毛は蛍光を発します。アップルグリーンと表されることが多いです。

 

全身にくまなく光を当てることで肉眼では確認できなかった病変も見つけることができ、ウッド灯は皮膚糸状菌症のスクリーニング検査としても有用です。

毛検査

ウッド灯により蛍光を発した毛を鉗子で引き抜き、顕微鏡で検査を行います。

顕微鏡で感染被毛を拡大して見てみると、皮膚糸状菌によって明らかに正常な毛よりも太く膨らんでしまった毛が観察できます。

さらによ〜く見てみると、皮膚糸状菌の胞子のツブツブまで見ることができます。

皮膚糸状菌の感染被毛。周りの小さいツブツブが皮膚糸状菌の胞子です。

 

真菌培養検査

真菌培養検査は感染の証明ではなく、皮膚糸状菌の種類の同定のために行う検査です。

DTM培地という皮膚糸状菌の検出に優れた培地を使用して、培養を行います。

M. canis感染被毛を植えて5~7日経つと、培地の色が黄色から赤色に変化して、白い綿毛のようなコロニーが育ちます。

   

さらにそこから育ったコロニーを染色して顕微鏡で見てみると、皮膚糸状菌の大分生子が観察でき、その形態から種の同定ができます。

紡錘形の大分生子。この大分生子の形態から皮膚糸状菌の種類を同定します。

14日間観察しても培地に変化がなければ、真菌培養検査陰性と判断します。

 

皮膚糸状菌症と似たような症状を示す他の皮膚病もあるため、以上の検査で判断が難しい場合にはPCR検査皮膚組織生検などの検査を行う場合もあります。

皮膚糸状菌症の治療

皮膚糸状菌症は健康な動物であれば3ヶ月以内に自然に治ってしまう場合もありますが、その間に周りの人や動物へ伝染ってしまう可能性もあります。

また、子猫が皮膚糸状菌症に感染してしまった場合は、子猫にとって重要な社会化期に人や他の動物と一定期間隔離することが必要となります。

そのため、全身療法と外用療法を適切に組み合わせ、なるべく短期間で完治させることが大切です。

病変部の毛刈り

病変部の毛刈りの有無によって、治療期間が変わるのか比較した論文はありません。

毛刈りで感染を悪化させたという論文もあれば、治癒に役立ったという論文もあります。

そのため今のところ毛刈りをすべきか明確な答えはありませんが、外用療法を行いやすいように必要最低限の毛刈りは行うようにしています。

その際には皮膚を傷つけないようにすることと、感染被毛が周囲に撒き散らないようペットシーツや新聞紙などの上で行っています。

抗真菌薬の内服(全身療法)

皮膚糸状菌症の治療として最も多く使用されるのが、イトラコナゾールという内服の抗真菌薬です。

この全身療法の良いところは、毛穴の中にいる皮膚糸状菌も倒してくれるところです。

皮膚糸状菌症に対する治療用量では副作用はほとんどなく、比較的使用しやすいお薬です。

1日1回で経口投与する方法や、1週間飲んで次の1週間はお休み、というパルス療法もあります。

外用療法

皮膚糸状菌症に対する外用療法感染力のある被毛に直接薬を付けることができるので、環境や動物への感染の広がりを最小限にしてくれます

さらに、内服の抗真菌薬と組み合わせることで、治療期間の短縮にも繋がります。

犬と猫の皮膚糸状菌症のガイドラインにおいても、週2回のライムサルファ製剤(硫黄泉)、ミコナゾール/クロルヘキシジン含有シャンプーは効果的な外用療法として推奨されています。

こちらは英語の動画になりますが、ライムサルファ製剤で薬浴をさせている様子がとてもわかりやすいので参考にしてみてください。

 

一方、限局性病変の場合は塗り薬も有用な治療ツールの一つとなります。

当院で実施したルリコナゾール1%含有ローションによる外用単独療法では、1日1回の塗布14〜21日間という短期間で治療効果を得ることができました。

左:治療前  右:ルリコン治療14日後

 

治療モニタリング

適切な治療を行うと見た目上すっかり治ったように見えるかもしれませんが、まだ見えないレベルで皮膚糸状菌が残っている場合もあります。

そのため、皮膚症状が治ったように見えても油断は禁物です。

皮膚症状もなくなりウッド灯を当てても光らなくなったら、全身の毛をくまなく歯ブラシで集め、真菌培養検査で陰性が確認できた時点でようやく治癒と診断します。

健康な猫であれば、適切な全身療法と外用療法を行うと多くは4〜8週間で治癒します。

環境清掃

皮膚糸状菌の感染は基本的に動物同士の接触のため、小さな傷などがなければ環境中の感染被毛やフケから伝染する可能性は低いと言われています。

しかしながら、環境中の感染被毛が猫の体に付いてしまうと偽陽性となり、必要以上に治療を行わなければならなくなったり、適切な治癒の判断ができなくなることがあります。

また他の動物や人への感染を最小限にするためにも、環境清掃は適切に行いましょう

 

皮膚糸状菌はカビの一種ですが、家庭内で見かける白カビや黒カビのように環境中で増殖はしません

そのため、基本的には「環境中の毛やフケを機械的に取り除く」「表面をキレイに洗う」といった普段の掃除を少しだけ意識して行ってもらえればOKです。

  • 掃除機やクイックルワイパーなどで毎日落ちた毛を取り除く
  • 洗濯物は最長サイクルですすぎ2回(漂白剤は必要なし)
  • 洗濯機や乾燥機は使用後に消毒(加速化過酸化水素などをスプレー)
  • 猫は掃除がしやすい部屋へ(制限しすぎる必要はなし)

猫が使ったベッドやタオルの洗浄や消毒などのしっかりとした掃除は週2回毛を取り除く掃除は毎日行うことが推奨されています。

 

また、子猫や引き取って間もない猫の場合は皮膚糸状菌症だからといって、隔離しすぎることは今後の人と猫の関係性を考えるとあまりよくありません

特に社会化期である子猫時代は人や環境に慣らすためにも、どんどん触って遊んであげることが重要です。

皮膚糸状菌症の猫を触ったあとは必ず手を洗ったり、過剰に怖がらず適切なハンドリングを心掛けることで感染を防ぐことができ、今後も猫との良好な関係性を築くことができます。

社会化期のスキンシップが今後の猫との関係性を築きます。

まとめ

今回は猫の「皮膚糸状菌症」についてまとめてみました!

猫の皮膚糸状菌症は全身療法と外用療法、そして適切な環境清掃の組み合わせにより、なるべく早く治してあげることが重要です。

もし新しい子猫を迎え入れて「あれ?脱毛してるかも?」と思ったら、早めに動物病院を受診してみてくださいね。

それでは、また〜♪

参考資料

  • Feline Dermatology(2020)
  • Diagnosis and treatment of dermatophytosis in dogs and cats.: Clinical Consensus Guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology (2017)
  • 1%ルリコナゾールローションによる外用療法が奏功した猫の皮膚糸状菌症の3例(2020)
  • Muller and Kirk’s Small Animal Dermatology 7th ed.(2012)

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